介護施設のストレスケアを考える際、まず注目されるのは介護を行う「介護者」のストレスで、介護施設に入居する「高齢者」ストレスに関しては、あまり光が当たらないというのが実情です。しかしながら、近年、介護施設に入居する高齢者がストレスから体調面や心理面で不調を訴えるケースが増えており、介護の現場では、老年期のうつ病の問題も深刻になりつつあります。
そこで今回は、高齢者が介護施設で感じるストレスと、その解消法について考えていきたいと思います。
介護施設では高齢者が多数集まって生活するため、生活サイクルやスタイルが似ているもの同士、円滑な人間関係が築きやすいというイメージを持つ方が多いようです。
しかし実際には、集団生活の要素が強いため、「日常生活に自由がない」と感じる方が多く、この点がストレスの要因となっている方が多いのです。
例えば、介護施設には医療行為や介護支援を多く必要としない方も入居します。そういった方の場合、日常生活において周囲に合わせて必要以上の援助や介護を受けるという状況に、スタッフから過干渉されている気分になるなど、日々の生活を送るだけで、想像以上にフラストレーションを溜めやすい傾向にあります。
一方で、老化に伴う身体面の変化や衰えを認めることができず、日々の支援や援助、介護を受けることを憂鬱に感じたり、人の手を借りなければ生活のできない自分を情けないと考えてしまう方もいます。そういったストレスから老年期性のうつ病を発症し、殻に閉じこもってしまうというケースもあるのです。
入所者同士のトラブルが原因で、ストレスを抱え込む方もいます。24時間、同じ施設で暮らしている人とトラブルになってしまうと、心が休まりませんよね。
また、高齢者ならではのストレスとして、仲良くしていた人が他界してしまうといったものがあります。話し相手がいなくなってしまった寂しさや、自分にも死期が迫っていることを実感して、強いストレスを感じてしまう方もいます。
花や緑とのふれあい
最近は、ストレスケアの一環として、家庭菜園で野菜や花を栽培するといったレクリエーションを導入する施設が増えています。人の心と身体は、自然に触れることで、元々備わっている自然治癒力が回復すると言われています。
介護施設の生活でストレスを感じたら、施設内の草木に触れる、周囲の緑豊かな公園を散策するなど、花や緑に触れ合う機会を設けてみましょう。
また、居室に花を飾るだけで、心がリラックスすることも。成長する観葉植物などを育てると、手間をかけた分、喜びを感じることができてストレス解消につながります。
腹式呼吸を心がける
日頃から、深くゆっくりとした腹式呼吸を心がけていると、全身の緊張がほぐれ、心がゆったりと落ち着いた状態を維持できます。簡単な腹式呼吸の方法には、次のようなものがあります。
背筋を伸ばして全身の力を抜き、下腹部に力を入れる
お腹をふくらませながら、ゆっくりと息を吐き、吐ききったら少し止める
身体の力を抜く
自然に身体に空気が入ってくるので、お腹を膨らませるようにして息をいっぱいに吸い込む
1~5を1セットとし、ゆっくりと数回繰り返す
最初は少し難しく感じるかもしれませんが、慣れるとテンポよく行うことができるようになります。毎日の習慣にするのも良いですが、感情が高ぶったとき、不快な気分になった時にこの呼吸法を行うと、心が落ち着いて冷静になることができます。
リフレクソロジーを取り入れる
ストレス緩和には適度な運動やマッサージが効果的ですが、気が向かないときや体調が悪いときに無理して行うと、かえってストレスになってしまいます。
そこでおすすめなのが、身体的な負担が少ないリフレクソロジーです。リフレクソロジーは、足裏をじんわりと優しく刺激することでリラックス効果を促し、ストレス緩和に良いとされています。
また、スタッフの方や家族に施術してもらうことで、タッチセラピー(肌と肌との触れ合いを通して、ストレスケアや自然治癒能力の向上を試みる療法)の効果も期待できます。
人は年を追うごとに、比較的穏やかになっていきます。しかしその一方で、悲しみを感じるといつまでも嘆き続けたり、負の感情を抱くと怒りがずっと消えなかったりと、一つの感情にとらわれて、そこからなかなか抜け出せないという特徴があります。
そのため、ストレスや精神的負担をためて込んで、心身に不調をきたす高齢者も少なくありません。小まめなストレスケアは、介護施設の入居者にとって大変重要なものだと言えるでしょう。